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『ファインマン物理学Ⅱ 光 熱 波動』




物理的現象と生理的過程との両者 含む色覚に関し関連していろいろと面白い現象があるが、われわれがものをみるという自然現象を完全に理解するには、ふつうの意味における物理学の範囲を越えなければならない。このようにほかの分野に足をふみ入れることについて、とくに言いわけをするつもりはない。分野の区別などというのは、これまでも強調してきたように、単に人間の都合にすぎず、不自然なことだからである。自然はこの分離に関心をもたない。興味ある現象にはいくつかの分野に跨るものが多いのである。
ファインマン物理学Ⅱ 第10章 色覚 より

日本語版ファインマン物理学は全5巻に及び、一冊約5,000円程度と少々値が張る。しかし、この一文を読むためだけにでも購入の価値がある。
ファインマン物理学は発刊当初、物理学者からの批判が多かったという。それはこのような”語り”が多く、数式が少ないからであった。
物理学者の多くはその物理現象がシンプルな式であらわされることに美徳を感じている。簡単な微分方程式でニュートン力学をあらわせることを学んだときに、物理学が好きになったという人は多いだろう。かく言う私もそうだ。交流波の位相のずれを煩わしいsinやcosを使わずに、オイラー方程式を用いることで虚数平面上でシンプルにイメージできることを知ったとき、私は確かな興奮を覚えた。ファインマンだってそうだったに違いない。しかし多くの物理学者はここで数式装置に取り込まてしまう。数式変形のテクニックを示すことに、多大な紙幅を割いてしまうのだ。手に取った教科書の内容の半分以上が、式変形の途中式の羅列なんてことはざらだ。
ファインマンは物理学を愛していたし、現象そのものがもつ面白さを自分なりに追いかけていた。だから彼は数式という装置に取り込まれずに、独自の視座から物理学を拓いていった。ファインマンダイアグラムは彼の物理学へのまなざしが見て取れるよい例である。もちろんそれだけではない。例えば彼は光の基本的な振る舞い———光の反射に関して説明するとき、フェルマーの最小原理を用いてこのように説明をする。
スネルの法則でなら、光が”わかる”。光はまっすぐに進み、表面にあたる、表面で何かが起って光が曲がる。光が一点から次の点に進み、それからまたつぎの点にうつるという因果律の考えが、理解されやすいというわけである。ところが最小時間の原理は、自然の働き具合について全くちがった哲学的原理である。われわれは状況を設定すると、光はどれが最小の時間になるか決定し、そしてその経路を選ぶ、という言い方をする。いったい光はなにをするのか、どうして道を見つけるか。光は近くの道を嗅ぎまわって、較べるとでもいうのであろうか。ある意味では確かにそうなのである。

ファインマンはいつでも自然現象を総合的にとらえている。だからこそ物理学一般で用いられている表現に取り込まれない。このファインマン物理学という教科書が他の教科書に比べ圧倒的に語りが多く、章立てが特殊なのはそのためである。『ファインマン物理学Ⅱ 光 熱 波動』の第10章タイトルは「色覚」、第11章は「見ることの機構」だ。物理学と銘打った教科書において、わざわざ2章も割いて目の神経の構造や虫の複眼、蛸の目の断面を解説する教科書はほかにないだろう。こういった側面から、この教科書は正当な物理学の教科書ではないと批判され、大学の講義ではほとんどの場合で採用されていない。しかし、果たして正当とはなんなのだろうか。もちろん王道はある。しかしながらそれは、権威主義的なものだったりとか、数式装置に取り込まれてしまうこととは違うはずである。
自然現象を自らとらえることから始める。このことがいかに重要で、そしてそれがいかに現代において難しくなってしまっているのかということを実感している。ひたすらに不思議を追っかけていくことと学校教育は相反してはいけない。だからこそ、大きなシステムに対して教師の存在がある。尊敬する先輩教師が異動で学校を去るとき、「教師みんながファインマンになったら、学校は困るんですよ(笑)」と冗談をいいながら私に『ファインマン物理学Ⅰ』をくれた。あのとき改めてファインマン物理学を読んでいなかったら、私は今頃大きなシステムの一部だったかもしれない。
もし、いつか自分が後輩の教師に何かを伝えるタイミングが来たならば、私は『ファインマン物理学Ⅱ』を手渡そうと思っている。



ちなみに英語に堪能であれば、実は買わなくてもキャルテクのHPで全文読めてしまう。
正直、英語の小説を読むよりも全然難易度は低い。

The Feynman Lectures on Physics
https://www.feynmanlectures.caltech.edu/
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